サソリの神シリーズ。

サソリの神〈1〉オラクル―巫女ミラニィの冒険 (サソリの神 (1))

サソリの神〈1〉オラクル―巫女ミラニィの冒険 (サソリの神 (1))

 本屋さんで見かけて気になっていたシリーズ。手に取ってみると面白い。それほど期待していなかったのだが、非常に読みやすく、世界観もいままでにない雰囲気なので新鮮であっという間に読み進めることができる。舞台はエジプトを思わせる古代。九巫女が神の化身であるアルコンの声を民衆に伝えて統治している。神の声を聞くということがどういうことなのか、その言葉に大きなチカラを持っているからこそ不正も生じる。果たして神なのか?と疑いたくなるくらいなアルコンであるが、万能すぎないところが物語を面白くしている。男主人公のセトが欲に走りすぎて、いまのところ好感が持てない。

 まだまだ子供なアルコンと古なじみなオブレクが歌の泉を見付ける旅にでる。その間にも反乱が起こってしまったりとかなり忙しい展開に。旅の冒険自体はそれほどまでに面白いと感じられるものではなく、どちらかというと緊迫していて面白いのは政変の起こっている島の方。神はやっぱり答えてほしいときに答えてくれないあたりがいい感じ。

サソリの神〈3〉スカラベ―最後の戦いと大いなる秘密の力 (サソリの神 (3))

サソリの神〈3〉スカラベ―最後の戦いと大いなる秘密の力 (サソリの神 (3))

 最終巻。反乱により権力を得た将軍だが最愛の人を死なせてしまい狂気に走る。その機を狙って別の一派が頂点に立とうとする。墓所で巻き返しをはかるミラニィとアルコンたちだが、どういうわけか将軍とともに冥界を旅する。序盤はアルコンたちが表に戻る策略を廻らせており、それが成功すると思ったときになぜかきまぐれな神様が冥界へ連れ込む。急展開に驚きを隠せない。分断された仲間たちは怪しい魔術に侵されるし、誘惑されるし、地震は起こるし、密約は結ぶし、忙しすぎる。最後はちゃんと丸く収まるのだが、それでも本当にこの世界が安定するのはこれからなんだろう。最後だけ神らしいのも成長の証か。セトはかなりいい男になってきた。しかし、セトよりもセトの父の方が大活躍だったかも。
 3巻はかなり厚い本なのだが、それを感じないほどにすらすら読める。このシリーズの面白さはエジプトという神秘の舞台と生々しいくらいの人物たちだろう。神にしてもなんでもできるというわけではないし、巫女たちもそれぞれがそれぞれに欲望を持って暗躍する。自分中心に廻っている人間が多いからこそ自体は混乱するのだが、それが本当の世界だろうとも思う。勇気を持った人ばかりではないし、臆病だったし無防備だったりする。そういう部分が描かれていることでこのお話に重さが出ているのだろう。神が実在する世界なのだが、神にも学ぶべきことはたくさんあるらしい。