アブダビGP 決勝

 まさかセバスの満面の笑顔が見れるとは思ってなかった。歓喜の声よりも先に涙声で、それからいつものようにひゃっぽう!と叫んで、ベッテルらしい声が聴けた。それが今週末だった。
 チャンピオンシップの行方が気になって、予選からしっかり見てしまった。フリー走行ではレッドブルの2台とマクラーレンの2台がよさそうと聞いていたから、予選もそうなるものと思っていた。予選で速さを見せたのは意外にもロズベルグだった。Q1もQ2もラストアタックでものすごくいいタイムを出してきたので、正直驚いた。そして、最終戦で見せつけてくれたのがうれしかった。ひさしぶりに褒められてた! Q3ではベッテルが鮮やかなポールポジション。ハミルトン、アロンソ、バトンと続いて面白そうな感じ。ロズベルクはオプションだと速さが出なくて9番手スタート。
 さて、決勝。スタートはベッテルとハミルトンがポジション維持。バトンがアロンソを抜いて3番手に。このあたりからアロンソの守りが見えていた。シューマッハの単独スピンにリウッツィが乗り上げてSC。ドライバーは二人ともケガなく、二人で談笑しながらピットに向かう姿も映しだされた。ここで動いたのがロズベルグ。苦戦していたオプションタイヤから早々にプライムタイヤに履き替え。ペトロフもピットイン。これがワールドチャンピオンを決める分岐点の始まりだったように思う。
 リスタートしてからも上位勢は変わらず。ベッテルが後続を引き離しにかかる。11週目で早々にウェーバーがピットイン。それをマークするようにアロンソもピットインしてウェーバーの前に出た。しかし、こうなるとアロンソの前にはロズベルクとペトロフという二人がいることになる。ベッテル、ハミルトン、バトン、ロズベルグペトロフアロンソ。このままだと6位なのだ。そして、チャンピオンになれない。アロンソには檄が飛ばされたが、意外にペトロフはしぶとい。ストレートが速いということもあって、アロンソに決定的な抜きのきっかけを与えることは最後の最後までなかった。そして、それがアロンソからチャンピオンシップを奪うことになった。もし、ペトロフさえ抜けばいいという状況であったなら、アロンソは多少無理をしてでもアタックしただろうと思う。しかし、ペトロフを抜いてもその前のロズベルグを抜かなければチャンピオンになれない。これがためらわせた点だったように思えた。
 ハミルトン、ベッテルは順調にピットインし、バトンはスティントを延ばして対応した。ラバーが載ってきたため、それほどタイムが落ちなかったのだ。同じようにクビサもスティントを延ばした。クビサがピットに入ったのは46週目。ここで順位が揃った。ベッテル、ハミルトン、バトン、ロズベルグクビサペトロフアロンソアロンソは7番手に後退した。そして、そのままチェッカー。ベッテルが終始落ち着いていたのがすごいと思っていたら、自分のドライビングに集中していたので、アロンソの状況は聞いていなかったのだという。それが彼を最後まで攻撃的にした要因なのだろう。自分がベストを尽くすことで、結果が着いてくる。ほんとうに着いてきた。ワールドチャンピオンという大きなものが。
 表彰台の上でハミルトン、バトンという過去2年のチャンピオンにシャンパンをかけられているベッテルは本当にうれしそうだった。そして、見ている側も笑顔になった。才能あふれる若いドライバー、見ていてはっとするくらいのドライビング、チャンピオンをとるならベッテルがいいと、このレースが始まる前に思ってはいたが、本当にとれるとは思っていなかった。アロンソが5位以下という条件はとても難しいように思えたからだ。それにはロズベルグペトロフという思いもかけなった2人が関わることになり、やっぱり最終戦はドラマがあるなぁと思ってしまった。チェッカー後、ペトロフアロンソが苛立ちを見せる映像があったが、あれはダメだろう。同一周回でバトルをしていたのだから、ペトロフに怒るのはただの八つ当たり。悔しいなら抜かないといけなかったのだ。
 ロズベルグもとてもいいレースだった。長いプライムでの周回は難しい点もあっただろう。でもきちんとコントロールして4位だった。クビサにポイントを抜かれることなく終えることができてほっとしたし、コンストラクターズも4位だった。もっと上に行ってほしい。優勝してほしいと思っていたけれど、今年のメルセデスではそれは難しかったかもしれない。来年はもっといいポジションにいけると確信している。
 今年は最後の最後までどきどきするレースだった。韓国GPは開催するのかとかいろいろ不思議な緊張もあったが、全体として面白かった。最後にこれまでタイヤ供給を続けてこられたブリジストンのみなさんにありがとう。私が見始めたのは本当に近年だが、それまでの長い間F1にかかわり続け、素晴らしいタイヤを供給し続けたことはものすごいことだと思う。今年で見れなくなるのは残念なことだけれど、これまでのチャレンジはとても大きなものだし、日本の誇りでもあったと思う。