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トールモー・ハウゲンの作品。

児童書

 子供の心をここまで現実味を帯びて描き出している作家さんは他にはいないと思います。文体は明瞭で簡潔。だからこそ、引き立つものがあります。

夜の鳥

夜の鳥

 ヨキアムは両親と暮らしている。母は慣れない洋服店で働き、父は教師になったものの、精神的な病気で今は家いにる。ヨキアムは不安になると洋服タンスの中から鳥の声が聞こえた。
 子供の想像力が詳細に描写されています。細かいところまではっきりと目に浮かぶように描写されているところが、私の心の中にもあった子供の頃の記憶と繋がっていきました。子供の精神状態は家庭の状況によるところも大きいです。ヨキアムが不安を感じるたびに身体のどこかに重さをかんじるように、わたしも不安があると下腹部に鉛のような鈍い痛みと重さを感じたものでした。想像力が大人よりも遥かに優れている子供にとっては、ほんのささいなことが別世界への入り口だったりします。こんなにも、子供の心を捉えている文章は見たことがありません。そして、夜の鳥はきっと今でも、私の心の中にはいるような気がします。  

ヨアキム 夜の鳥2

ヨアキム 夜の鳥2

 ヨキアムの父はとうとう病院に入ることになった。離れて暮らすことになったヨキアムには不安が増す。そしてヨキアムの友達のいろんな事情も見えてきた。
 夜の鳥の続編。ヨキアムの家族が結論を出します。ヨキアムにとっても大きな意味を持つ決断であり、その事柄を通してヨキアムは成長しました。夜の鳥を閉じ込めていた洋服ダンス。もう鍵をかけなくても不安ではありません。ヨキアムの廻りにいる子供達の1人1人がどの家庭も幸せそうに見えて、その家庭の中にやっぱり何らかのカタチで夜の鳥が住んでいる。それをどんなふうに乗り越えていくのか。子供にとっては両親は最大の存在です。彼らに振り回され、大切なことは隠されてもそれでも、彼らは彼らなりに考え、答えを求めていく。大人がいくら隠してもその不安を子供は敏感に感じ取っている。子供と大人はおんなじ世界で生きています。だからこそ、大人が抱えた夜の鳥を子供たちも見ているんです。大人になるとどうして子供の心を忘れてしまうのかな。隠してもわかることを知っていたのに。

月の石

月の石

 月の力が消滅しようとしていることを知ったエリアム。彼女は千年に1人という能力を得ていた。そして、その月の力を取り戻すことのできる唯一のもの「ロシア皇帝の宝石」はニコライのすぐ近くにあった。
 とても神秘的で幻想的なお話。内容としては「ロシア皇帝の宝石」を巡って、ある一族が醜いほどの争いを展開していくことになるのですが、作品全体として貫かれているのは月の光に満ちた穏やかで神秘的な空間です。鏡や湖といった別の空間を思わせるような象徴を上手く利用しつつ、人々の心の中に渦巻いていく本当の闇が描かれています。月の石としての世界の数々の神話をモチーフにしたお話も魅力的。宝石の数だけ、忘れられた伝説があるとしたら、宝石という石のもつ魅力というのは増していくものかもしれません。とても幸せな家族とはいいがたいニコライの家族ですが、それでも自分ができることを貫いている。幻想なのか真実なのか、空間と空間を繋いでいくような多重現実の感覚がとても面白いです。人間の心の奥深いところを静かに見せてくれるような作品です。 

魔法のことばツェッペリン (文研じゅべにーる)

魔法のことばツェッペリン (文研じゅべにーる)

 ニナは両親と夏の家にでかけた。しかし、夏の家には誰かが侵入した痕跡が残っており、大人は騒ぎ立てる。ニナだけが知っていることがあった。
 短い章を繋いでいくような始まりが独特です。淡々と出来事を書いているのですが、人間のいろんな気持ちが大きくなっていくのがわかります。短い文章だから引き立つのかもしれません。いつもハウゲンの作品を読むと子供の心というのは、大人が思っているほどコドモではないんだなぁと思わせます。そして、私が子供の頃にそんな矛盾を感じていたことも思い出されます。1人の子供として、ちゃんと感じて、ちゃんと生きている。そんなことを感じさせる作品でした。不安というものは人の心を食べ物にしてどんどん膨れがっていくものです。闇を怖がり、見知らぬものを怖がる。人の心に渦巻く猜疑心ほど怖いことはない。真実を知ったら、なんだそんなことって思うほど簡単なことだったりするのに。

トロルとばらの城の寓話 (ポプラ・ウイング・ブックス)

トロルとばらの城の寓話 (ポプラ・ウイング・ブックス)

 かわいらしい表紙に誘われて、かわいらしいお話かと思って読むとかなり深くて愕然とする。これがかわいらしい姿をしているから、まだ物語だと思って読み進めることができるだけで、きっと同じような現実のおはなしだとしたら、辛すぎて前に進めない気がするくらい。