Endless SHOCK

 今年も帝国劇場に行ってきました。今年で4回目。毎回、違った感情が心にこみあげてきて、びっくりします。そして、1年前に私がどんなふうに感じていたのかも想い出します。通算500回を越えた公演。そのひとつひとつにいろんなものが積み上げられていて、この舞台のすばらしさを改めて感じました。
 今年は2階での観劇でした。2階といってもXから始まるちょっと飛び出た席だったので、1階の客席部分で進行しているときはあまりよく見えませんでした。その分、そのあたりは映像として流れているので、何が起こっているかはきちんとわかりました。多少、高所恐怖症気味な私には落ち着かなく感じる席ではありましたが、ストーリーが進行するにつれ、そんなことも忘れてしまっていました。2階からではありましたが、いままでより前列に近い位置だったので、ひとつひとつの動作がよく見えました。ダンサーさんの足先、指先、その回転。いろんなことが新鮮でした。光一さんのフライングのときは、いつもその足先を見てしまいます。綺麗に飛んでいる角度がどう見えるか考えて、演技されているのでしょう。
 今回はオーナーが大倉くんになって、カンパニーの中のオーナーの位置も少し変わったように思います。いじられキャラいじられキャラなのですが、オーナーとしてのオオクラをみんなが支え合っているカンパニーなのかなと思いました。オオクラが成長していくのをみんなが見守っている感じがしました。オオクラのピンクのスーツは「サーモン」と言われてましたけれど、かわいかったです。オオクラの一番の見せ場は2幕。コウイチがこの劇場に現れるという夢を見るというシーン。このシーンは今回追加されたものなのですが、「追憶の雨」の曲に新たな歌詞を載せて、オオクラの心境を吐き出すものになっています。そのあとのダンスもそのまま心情を表していて、オオクラの影が伸びて、その後ろでコウイチが踊っているというシーンはオオクラの葛藤を現している切ないシーンでした。あのダンスの激しさにオオクラの心が全部出ていて、自分のチカラの足りなさだとか、後悔だとか、それでも諦めきれない夢だとか本当にいろんな想いが詰まっていました。オオクラは事件の後、オフブロードウェイに戻ったことで、後退したと言われる立場になっていましたが、オオクラ自身にとっては前進しようとしていたのだと思います。いままでやりたかったシェークスピアに挑戦し、自分なりの表現を探してきた。だけど、彼の心はあの事件によって凍り付いてしまって、はっきりと前には進めなくなっていたのだと思います。そのあたりの心境がよく見えました。その後に、少し生き抜き的にコウイチが帰ってくるシーンがあり、オオクラとのブートキャンプのシーンがありました。このあたりは素でオオクラが辛そうだったのですが、そんなふうにみんなにかわいがられているオオクラの一面がよく見えました。
 今回も殺陣がすごかった。かなり大幅に変更されていたように思うのですが、ものすごくテンポがよくなっていて、迫力も増していました。その殺気がビシビシ伝わってきました。ヤラの演技はいままでのライバルたちとは違っていて、挑発するようにあざ笑ったり、ひょいひょいと身軽に飛び回ったりして、掴み所のない印象でした。スピード感が格段に上がったように感じられました。途中でヤラとコウイチが中央に立ち、かかってくる敵を切り倒すシーンがあるのですが、迫力がすごかった。二人が背中合わせになった途端に、二人の刃がぶつかります。一番の敵に向かったときの一瞬の息詰まるような間があって、どきりとしました。ヤラの側の武士(?)は身軽に飛び回っており、対するコウイチ側はどっしり構える古典型といったふうに、明らかに対照的になっていたので、すごくわかりやすかったです。
 ナオキのドラムシーンもどんどんすごくなっていました。今回は少し固い音のする新たなドラムを使った演奏が入っていて、あまり聞いたことのない音の世界が広がっていきました。コウイチとの和太鼓セッションもいままで以上に難しいものが入っていて、緊張感のあるパートでした。コウイチとナオキ以外にダンサーさんたちが入った群舞も見応えがありました。1幕での街のシーンのダンスもみんなで踊るパートがかなり変更されていて、楽しいものになっていました。
 今回はリカの気持ちを考えながら見ていました。一番印象に残ったセリフも「現実を受け止めなくちゃいけないの」という言葉でした。リカは最初はコウイチをひたすらに追いかけている存在でした。「それしかわからないし」というセリフにも表れていましたが、リカとしての気持ちはあまり表には出てこなくって、好きという気持ちも憧れに近いものなのかなと感じていました。その気持ちが大きく変わることになったのが、リカだけがコウイチの死を知っているという状況。あの状況の中で、コウイチが生きていたらということを誰よりも願ったはずのリカ。そして、今、目の前にいるコウイチがいまにも消えてしまうのではないかという怯えを抱えたリカ。たぶん、いままでのリカであったなら、コウイチがいるというその状況を受け入れるだけで終わってしまったと思うのです。だけど、リカはそうしなかった。コウイチが言っていた「走り続けること」。それをリカは実現しようと前を向いたからだと思う。そういうところでリカはいままで以上にコウイチに対して、まっすぐな気持ちだったのだろう。走り続けるために現実をみなくちゃならない。だから、リカは決心した。コウイチの言葉を大切に思うからこそ、行動できた。あの状況で現実を見ることはあまりにも怖かった。幻でもいいからいてほしいと願う心もあった。でも、それでは前には進めない。凍り付いたままの時間を進めることはできなかった。リカが無理にも動かした時計の針がカンパニーのみんなの時間を進めることになったのだと思う。そして、また、カンパニーの心は一つになって、前に進んでいく。
 一人でも進めるだろう。でも、きっと道に迷う日は来る。そんなときに背中を押してくれる仲間。隣を走ってくれる仲間。きっと誰かがそこにいるから、また次に走り出していける。いつまでも、どこまでも、ずっと。そう、夢を願う気持ちはずっと続く。終わりなんかないんだ。そばにいるみんなの気持ちを見失わなければ、どこまでも走っていける。来年もまた、この夢の続きを見れますように。