まだまだ続くシリーズなのですが、3冊読んだので感想。現実味を帯びるほどの描写がぐいぐい物語に惹き付けていきます。
先史時代の生活が生き生きとまるで目の前に広がっているように書かれています。今では想像も付かなくなってしまった狩猟の時代。その時代に生きる人々がいかに命を大切にしていたか、森との対話を大切にしていたかが伝わってくる作品です。その状況描写や隅々まで行き届いた視点を通して、静かにそして脈打つように感じられる命というものを全編を通して感じました。途中、オオカミからの視点で書かれている文章が挿入されるのですが、それがとてもかわいい。『背高しっぽなし』なんて呼ばれたら、それだけでなでなでしたいような気持ちになってしまいます。まだまだシリーズは続くようなので、続編を楽しみにしています。
主人公トラクと狼のウルフ。この巻からレンという仲間が加わりました。トラクが大クマを倒したことにより、トラクの存在が世界に知れ渡ってしまい、罠にかけられてしまいます。罠にかけていた人物もあっと驚く存在なのですが、トラクの能力や父の秘密など、驚くべきことが明らかにされていきます。トラクとウルフの繋がりはより強いものになっています。海を怖がっていたウルフが船に乗るあたりがお気に入りのシーン。この巻ではアザラシ族の生活が鮮やかに描かれています。海の匂いや魚の匂いを感じるほどまでに緻密な描写です。その中で渦巻く人間の闇の部分が、くっきりとしていて不気味です。
連れ去られたウルフを取り戻すためにトラクとレンは
氷の世界を旅する。1巻では山、2巻では海が舞台だったが、今回の舞台は氷。吹きすさぶ風雪の中で凍えるような体験が描かれている。白クマの畏怖を持った登場や、命をかけての氷渡りなど、想像するだけでぞくぞくするシーンが多い。そして「魂食らい」という恐ろしい人々が直接描かれることになる。悪霊の存在がうごめく闇を想像するだけで、重い気持ちになる。この出来事により、トラクとレンの絆がより深いものとなった。お互いに思いやる心からかなり無茶なこともしでかしてしまうのだが、それも認め合った存在だからということだろう。ラストでは次作に繋がる不気味な痕跡が残されている。まだまだ解決はしていないということだ。トラクの能力はトラクが思っている以上に危険な存在だ。それを自覚していない彼がこの先どのように立ち向かっていくのか気になる。純粋すぎるからダークサイドに落ちるのも近い気がしてならない。それを留めているのはウルフやレンという仲間があってこそなのだろう。