◆音を聴くとき、瞳は閉じる。

 イングリット・フジ子・ヘミングさんのピアノリサイタルに行ってきました。ここ数年、1年に1度くらいですが、クラシックのコンサートに参加して、心の中から音を感じる時間をもつことができてとてもうれしいです。ピアノは楽器の中でも特に好きな音です。ピアノのコンサートにずっと行きたいと思っていた願いが叶ったことも、フジ子・ヘミングさんというとても素敵なピアニストの演奏を聴くことができたことも、充実した時間に繋がりました。
 会場の入り口で渡されたプログラムを拝見して、ショパン、リスト、ベートーベンはタイトルをみて曲が響いてくるような曲だったのですが、バッハはまったく知らなくてどんな曲なのかなぁと思っていました。でも、始まって実際に曲を聴いてみると、いままでにどこかで聴いたことがある曲ばかりだとわかりました。初心者さん向けにメジャーな曲ばかりで構成してくださったのでしょうか。
 1曲目は浅田真央さんの昨年のSPの曲「月の光」でした。テンポが随分ゆっくりとしていて、静けさが際立つような構成でした。私の頭の中では曲とともに浅田真央さんがスピンしたりスパイラルしたりしてしまっていたのですが、たぶん、そんな方も他にもおられたのではないでしょうか。ショパンではエチュードの中でも私が好きな「黒鍵」を弾いてくださったのはうれしかった! きらびやかな音がピアノからどんどんあふれ出して、会場中を埋め尽くしていくようでした。リストの曲は超絶技巧な曲も多くて、もう音がはじけ飛んで散らばって、めくるめくファンタジーという世界でした。私の席からでは手元が見えなかったのですが、それでもかなり動いているなぁということが感じ取れましたし、できれば手元もみたかったなぁと思いました。音に集中しようとすると、自然に瞳は閉じてしまって、いつのまにか音だけの世界にいることがありました。それがものすごく心地よくてびっくりするくらいなのです。
 プログラムのラストは「ラ・カンパネラ」圧巻の演奏でした。高みに登って、降りて、激しく強く揺さぶられて、どこかに行ってしまいそうなそんな演奏でした。テレビやCDでは何度か聴いたこともありますが、生の演奏はまったく味わいが違いました。身体ごと全部もっていかれる感じ。ひきずられて、振り回されて、それでも心地よくて、なんだかものすっごいんです。言葉にしようとするとどうしていいのかわからないのですが、とにかく音に飲み込まれて、気が付いたらここにいたって感じなんです。演奏が終わってからも、身体の中で音が鳴り響いて、なんだか自分の身体から音符が飛び出るような気がしてしまいました。充実した時間を過ごせたこと、素敵な音を聴くことができたこと、とても感謝しています。