崖の上のポニョ。

 勢いで『崖の上のポニョ』を観に行ってきました。さすがに夏休み、さすがに公開間際。いつもはそんなに人のいない映画館なのですが、人でいっぱいでした。ポニョは子供たちに人気のようで、私の周りも小学生の子供たちでした。今回は子供たちと一緒に観たことで、この映画がすごく楽しめたなぁと思いました。興味のあるところではぐっと身を乗り出してみていたり、面白いところでは笑ったり、一度聞いたら耳から離れないあのテーマソングは子供たちみんなが一緒に歌っていたりしました。そんなふうに楽しんでみる姿勢を教えてもらえたので、この映画のいいところを一緒に感じられました。以下はストーリーに関わる記載有りで。
 すごく色の綺麗な映画でした。ジブリカラーが画面いっぱいに拡がって、どこをどうみていいのかなと思うくらいに、画面いっぱいにいろんなものが描かれていました。最初の海のシーンではクラゲの大群が描かれています。クラゲの分割ってちょっとおどろおどろしい感じがしていたのですが、ジブリが描くと不思議にリズミカル、ぽんっとはじけてたくさんのクラゲになって漂っていく。それは生命の躍動のようにも思えました。そして、崖の上のおうちという設定。背景が色鉛筆風に描かれていたので柔らかさとノスタルジーを感じます。崖の上にたった一軒建っているおうちというだけで、どきどきしてしまいます。お父さんの船に向かってモールス信号の点滅を送るシーンや、最後には海にとっぷりと浸かってしまって、島のようにおうちだけが残っている設定など、崖の上に家があるという設定は面白い演出になってました。
 ポニョと宗介が出逢うシーンの海の色がジブリ色。あとは宗介がポニョと離れてしまう岩場の色も綺麗でした。フナムシがざわざわしていて、岩の色がなんとなくむらさきっぽくて。波が魔法で怪物のように追いかけてくるシーンは、たしかに海坊主とかそういうのってこんなふうに思ったよねと思わせる子供の視点。あとはポニョと宗介が一緒に走ったトンネルがなんだか私が知っているトンネルにすごく似ていて、最初は歩いていたけど、最後には走り出してしまったなぁと想い出しました。
 ポニョが生命の水を放出してしまったことで、海には古代魚が泳ぐように。海の底に沈んだ街の様子がまた想像していた世界が目の前に拡がっていくようでした。たぶん、こういう世界が描きたかったのかなと思うような光景。道を魚が泳いでいたり、洗濯物が水の中で干されて揺れていたり、古代魚が脇をかすめて泳いでいたり。海の生き物で溢れかえっているところに人間がいて、決して悲観していたりしないんですよね。前向きに動き出していたりする。たくさんの生き物が生き生きと描かれている様子は華々しくて、美しい色の世界でした。おうちの窓の外すれすれの海面に顔をつけて、海の中を覗く姿はすごくやってみたいなぁと思えるところでした。
 ストーリーを考察すると膨大な数の不明なことがあって、どうしてこうなって、こうなるのだろう?と疑問に思うところはすごくたくさんあります。でも、たぶん、この映画はそういうことをひとつひとつ上げていって疑問符だらけになるよりも、瞬間瞬間の前向きさや楽しいと想う気持ちを大切にした方がいいのかなぁと思います。敢えて1つだけあげるとすると、ポニョとフジモトの関係が親子だとはわからない上に、なぜポニョが閉じこめられているのかといったあたりがわからないので、始めは悪役なフジモトに閉じこめられているかわいそうなポニョかと思っていました。お父さんはちゃんとポニョのことを想っているのだということがもう少し見えたらいいのかなと思います。
 あとはクライマックスの盛り上がりはありません。かなりあっさりとしたラストです。こんなに大きく拡げておいて、収束はあっさりというところがすごいんですけど、宗介にとってはポニョがさかなの子とか半魚人とか人間とかあまりこだわりがないので、そのあたりをぐっと描いても仕方がないのだと思う。宗介にとってはポニョはポニョという気持ちが最初からあるわけなので、問題なんて存在しなかったということなんだと思うんですよね。
 この映画は全体を見渡すとよくはわからないけれど、場面場面を楽しんで、そのときの冒険心とどきどき感を味わっていくのが楽しいです。最後はハッピーエンドなので安心してみていられるし、ぱぱっと切り替わる場面は子供の思考はとんでいくようなそんな感覚に似ています。
 とにかくポニョがパワフル。女の子や女性がすごく強く描かれています。男性はちょっと頼りなさげだったり…。ポニョの前向きさですべてが引っ張られていきます。画面もテンポも全部が全部、ポニョのスピードでかけていきます。この映画はポニョのこのパワーが全部を持って行っているといっても過言ではありません。最初からクラゲの上でおなかぽこんと出して眠ってしまったり、嫌いな人には水をかけちゃったり、宗介のことになると魔法を駆使して人間になろうと願ったり。天真爛漫すぎて受け入れるしか仕方ない存在なんです。絵柄で観たときはかわいいとは思えなかったのですが、画面を駆け回って、疲れたら眠って、とんでもないことをしていても全くわかっていなかったりして、そういうポニョを観ていたらかわいいとしか言えなくなっていました。
 この映画で一番好きなシーンが波の上を駆けて、駆けて、跳んではねて、宗介に会いに行こうとするポニョの疾走のシーンです。すごい嵐なのに、その大波の上をすごいスピードで跳ばす跳ばすその全力の力が、私の中にも駆け抜けていって、どきどきします。そのポニョの力強さがこの映画の全体を支えているのだと思います。ラストだって、キスをすると人間になれるという泡の中に閉じこめられたポニョは、王子様のキスを待たずに自分で飛び上がって、王子様にキスをして人間になるのです。これが現代のおとぎ話のヒロイン像なのだと思う。待っていないで自分から飛び込んでいく女の子。だからこそのポニョなのかなぁって。ラストは気に入っています。
 前評判をいろいろ聞いていたのですが、私は楽しめました。すごく綺麗な色彩とポニョのパワーだけを感じるだけでも楽しいです。子供たちが感じるみたいに全身で楽しさを感じられたらいいのかなと思います。今回は周りが子供たちだったのが本当に良かった。すごく醒めても観られる映画だとは思うのですが、すごくのめり込んでもみられると思います。是非、子供たちと一緒に観て楽しんでほしいです。
 ジブリ作品恒例のおいしそうなものが今回も出てきました。たぶんチキンラーメンとおぼしきインスタントラーメン。すごくおいしそう。ハチミツ入りのお茶。これもおいしそう。ハチミツがとろーり溶けて、魔法がかかるみたいです。ポニョの顔をみているとあまりにもおいしそうで、おもわずごくり。