古王国記シリーズ

サブリエル―冥界の扉 (古王国記)

サブリエル―冥界の扉 (古王国記)

 死霊がわんさかと出てきたり、冥界へと入っていったり、決して明るいお話ではないのですが、読後は面白かったという感想と意外なことに爽やかに感じてしまう本です。世界観がしっかり構成されているので読んでいると本当にこんな国があるような気がしてきてしまうほどに、鮮やかな情景が目に浮かびます。サブリエルは後ろ向きになることもあるし、モゲットにいいように怒られているときもあるけど、最終的にはちゃんと自分で困難に立ち向かっていく女の子。途中でタッチストーンが合流してからは、ストーリーも楽しいところが多くなって読みやすくなりました。ラストの死闘のシーンは読んでいて胸が詰まりそうになりました。無敵のヒロインなんていないんですよね。こんなふうにいろんな悲しみを背負っていきてかなきゃなんない。ベルとチャーター魔術を駆使して戦うアブホーセン。大人も十分に楽しめるストーリーです。


ライラエル―氷の迷宮 (古王国記)

ライラエル―氷の迷宮 (古王国記)

 第2世代のお話。前作から14年が過ぎ、タッチストーンとサブリエルの息子サメス王子とクレア族の少女ライラエルのお話。サメスとライラエルの人生が交差するのはこの本の本当に最後の方なので、それまではお互いのストーリーになっています。ライラエルが創り上げたチャーター魔術の犬がとてもいい感じ。味方なんだろうけど、どこか突き放すような態度をとっていまいち頼りきれない。なんだかとても不思議なところのある犬です。モゲットとの関係も気になります。ライラエルが自分にチカラが授からないことに絶望し、違った方向へと導かれていきます。どんどんいろんなことを覚えて、実践していく成長の課程がとても面白い。出生の秘密がわかると、あぁ、そういうことだったのかって全部納得できてしまいます。サメスも次期アブホーセンのはずなのに冥界が怖くて、勉強も怠り気味。このままでアブホーセンになれるんだろうかとかなり不安にさせます。自分の行き先から逃げているようで最後の最後では逃げてないサメス。彼の成長はこれからなんだろうな。今回の敵はなんだかとても強力。タッチストーンとサブリエルも登場しますが、ちらちら程度なので特別出演といったところでしょうか。最終的な決着は次作「アブホーセン」に続きます。とても分厚い本なのですが、厚さが気にならないくらい面白さです。


アブホーセン―聖賢の絆 (古王国記)

アブホーセン―聖賢の絆 (古王国記)

 冒頭でサブリエルとタッチストーンにとんでもないことが起こり、幕開けからして波乱でした。アブホーセンとしての道を進んでいくライラエル。そして、自分の本当の道を見つけたサメス。ニコラスを助けるために二人は厳しい旅を続けますが、二人だったからこそ、そして不評の犬とモゲットがいたからこそ成し遂げられた旅だったのだと思います。ラストの戦いのシーンでは犬とモゲットの意外な真実が明らかにされます。そういうことだったのか…と納得するような真実。最後まで読んで、サメスがすごくかっこよくなったなぁと思いました。ほんとこのシリーズでは男性キャラクターがもうちょっと、がんばってくれたらいいのになぁと思うことが、よくあったのですが、サメスは自分の本当の道を見つけてからは、何からも逃げなくなったし、前を向く強さを持ったと思います。ラストのラストで不評の犬が、なんだか意味深なことをしてくれて、これが古王国記の次に繋がっていくんじゃないかなぁと思わせます。まだまだ、いろんな冒険やいろんな人物を読んでみたいシリーズです。シリーズに一貫して流れている、独特の雰囲気不思議でしかもちょっと暖かくて、底知れない深さが感じられるところはさすがです。個人的にサメス王子が好きなので、もし次回ということがあるのなら、サメスを活躍させてほしいです。