バーティミアスシリーズ

バーティミアス (1) サマルカンドの秘宝

バーティミアス (1) サマルカンドの秘宝

 とにかく面白い!600ページあるのですが、そんな厚さを少しも感じないほどに一気に読んでしまった。構成も上手いし最後の決着の仕方ももう最高にすがすがしい。主人公の男の子は魔術の才能はあるのだけど師匠に目をかけてもらえず、中途半端に知識先行で危うい状態。自分のしたことにびくびくするんだけど、それでもやるときはほんとびっくりするようなことを平気でやってしまう。すごく子供らしい行動にヒヤヒヤして、それでもなんだか最後にはおいしいところもちゃんとわかっているしたたかさに感心させられてしまう。そして、バーティミアス。中級のジンで強さも半端(笑) 強すぎもせず、下っ端には威張り散らす。冷酷なことを言うわりには行動は温かめだったりして、ほんとはいいヤツなのかもと思えてしまう。でも、頭はよくて機転が利くから、びゅんびゅん飛ばしていて面白い。この本の登場人物は出来過ぎでないのが面白い。なにをしても上手く行くってわけでもなくて、間違ったり悔やんだり、中途半端に自信を持ってたり。そこが物語の起伏になっているし、なんだか最後にはそれでも上手くいっちゃってるところも最高だし。次々に事件が起こるのだけど、展開が早すぎもせず、遅すぎもせずで、どんどんどんどん読めてしまう。最初はバーティミアスサイドとナサニエルサイドが分れていて、交互に書かれているのも次々読みたくなる策略か(笑) まだまだ謎は残っているので続きが楽しみ楽しみ。とにかく、何も考えずに楽しむだけ楽しめる作品です。


バーティミアスII ゴーレムの眼

バーティミアスII ゴーレムの眼

 待ちに待った2巻。ナサニエルはちょっとだけ成長していますが、最後の最後までいいところもなく、振り回されるだけ振り回されて頼りなさすぎるままで、ナサニエルファンとしては、イライラが募る(笑) 1巻でも登場したレジスタンスの全貌とそのレジスタンスの向かう先も見えてきました。魔術師だけに支配されたこの世界に疑問を持った少女、そして、その少女の向かう先を示してくれたバーティミアス。3巻ではこの世界の全部の根底が覆るようなことが起こるのではないかと思い、楽しみ。バーティミアスとナサニエルの関係もとても微妙です。ナサニエルは国家権力の中で押しつぶされそうなくらいちっぽけな存在にすぎないのに、権力に対する欲望と伸し上がろうとする気持ちだけで、今に至っています。本当の友達もいないし、気を許せるものもいない。ナサニエルの孤独が彼を追い詰めているような気がします。でも、バーティミアスバーティミアスでそんなナサニエルに同情することもないですしね。この2人の関係はドライなようでドライすぎない。ほんと微妙なラインです。信頼もあるようでないくらいだし。ナサニエルが何をしたいのか、魔術師として上に行けば行くほどに、人間として大切なことを見失っているようで怖いです。約束を守るとか、人を信頼するとか、そういう当たり前のことが当たり前じゃなくなってしまっているのが怖い。ナサニエルには、魔術師がなんたるかを変えることだってできると思うんだけど。すごく強運だし、ほんと情けなくても、最後の最後においしいのはいつも彼ですからね。その運ですべてを変えていってほしいと願ってます。


バーティミアス 3 プトレマイオスの門

バーティミアス 3 プトレマイオスの門

 これまでに登場した人物が意外なところで絡み合ってくる最終巻。驚きの結末が待っているといろんなところで聞かされていたので、用心しながら読みましたが、私としてはほぼ予想どおりの結末。ナサニエルは最後の最後でいいところを全部かっさらっていきました。いままでのどーしようもないくらいの軟弱ぶりとか、弱々しいところとか、威張りちらしているところとか、もう全部忘れるくらいのことをしてくれました。ナサニエルは権力を持てば持つほどに孤独になっていき、子供の頃の人間としての思いやりとか些細な優しさが見えなくなってしまった。だけど、バーティミアスだけがそれを想い出させてくれる唯一の存在だったのかもしれない。一方的に虐げているだけ?だったかもしれないけど、2人には本当に言葉では言えない繋がりがあったように思う。2人の心と身体を共有して見た世界は素晴らしかっただろう。そして、ナサニエルにとって一番ほしかった信頼というものを共有できた。重なるくらい側にいて、お互いにお互いを必要としていた。それがナサニエルが本当にほしかったものだったのだと思う。いままではそれを拘束するというカタチでしか不器用な彼には表現できなかったのだ。そして、一番ほしかったものを手に入れた彼は何も聞かないで、その手を離すのだ。笑顔のままで。
 口ケンカしていがみあって、仲が悪そうに見える関係が変に心地良かった。キティの本当に賢くて機転の利くところが逆に悲しかったりした。お互いにやらなければならないことがわかっていて、それぞれに集中するからこと上手くいくのだとはわかっている。だけど、そうしてしまったとき失うものもあるのだと思う。上手く生きることは悲しいことだ。これで世界は変わるのだろうか、まるで道化が踊るように一部魔術師に踊らされていた世界は、みんなの元に戻っていくのだろうか。相容れない存在が伴に手を取れる世界がくるのだろうか。難しいけど不可能じゃない。そう…、教えてくれた…よね。